タイの発電所の歴史は、国の経済成長とともに発展してきました。初期の段階から現代に至るまで、タイは様々な種類の発電技術を採用し、エネルギー需要の増大に応えてきました。今から30年前のバンコクでは停電も当たり前で、特に雨季になると数時間の停電は覚悟する時代でした。そのタイが今ではエネルギーミックスの多様化と持続可能な発展が重要な課題となり、停電は当たり前に起きていた国だったのが、今では再生可能エネルギーの比率をさらに高める議論をしたり、エネルギー効率の向上とエネルギー消費の抑制を図るための政策を実施しています。また、地域間の電力ネットワークを強化し、ASEAN諸国とのエネルギー協力を深めることで、エネルギー安全保障の強化を目指すことで、安定した電力が現在のバンコクにあります。さらに、近年ではBCG戦略なるものを打ち出し、国の持続可能な開発を促進するための経済モデルを発表しました。目的は、経済成長を促進しながら環境保護を図り、社会的な包摂性を高めることにあります。タイの電力事情と初期の発展タイでの電力供給の歴史は、19世紀末に遡ります。1898年、バンコクにおける最初の電力供給事業が開始されました。これは、王宮と主要な政府機関を照明するためのものでしたので、一般家庭に普及するのには少し時間がかかりました。初期の段階では、小規模なディーゼル発電所が主な電力源でしたが、20世紀に入るとタイはエネルギー資源の多様化を図り、水力発電の可能性を探り始めました。1950年代に最初の大規模水力発電所が建設され、国の電力供給体制に大きな変化をもたらしました。安定した電力供給が可能となり経済発展を支える基盤が整いましたが、ここから数年後、1970年代の石油危機を経て、タイは石油と天然ガスに大きく依存するようになります。石油価格の変動に強く影響を受けることとなり、エネルギー安全保障の観点から、国内の天然ガス資源の開発に力を入れるようになりました。これによりガス火力発電が主流となり、国内のエネルギーミックスに大きな変化が生じます。21世紀に入ると、再生可能エネルギーへの関心が高まり、タイ政府は太陽光発電、風力発電、バイオマス発電など、さまざまな再生可能エネルギー源の開発を促進し始めます。これは環境への配慮とともに、エネルギー自給率の向上を目指す戦略の一環です。なぜバイオマス発電ではなく石炭火力発電が急速に発展したのか1882年、世界初の商業的火力発電所であるパールストリートステーションが、トーマス・エジソンによってニューヨークに設立されました。火力発電所の歴史は、19世紀の産業革命にその起源を持ち、電力を生成する主要な手段の一つとして発展していきます。当初は石炭が主な燃料でしたが、20世紀に入ると、より清潔で効率的な天然ガスや石油も使用されるようになります。1920年代に蒸気タービンの導入により、火力発電の効率が大幅に向上し、より大規模な発電が可能になりました。そこから約40年後の1960年代には、超臨界圧力ボイラーの開発により火力発電所の効率がさらに向上します。一方で最近話題のバイオマス発電は、SDGsなどのトピックで度々話題に上がります。バイオマスとは一般的に木材、作物の残留物、家畜の糞、市町村の生ごみなど、有機資源からエネルギーを生産するプロセスです。しかし、バイオマスの歴史は他の発電方法よりも古くからあります。人類は暖を取るため、料理をするため、そして光を得るために木材などのバイオマスを燃やしてきました。これらはバイオマス利用の最も基本的な形態であり、現代のバイオマスエネルギーの利用につながる基礎を築きました。18世紀から19世紀にかけた産業革命により、石炭と他の化石燃料が主要なエネルギー源として台頭しましたが、多くの農村地域や開発途上国では、バイオマスが引き続き重要な燃料源として利用されていました。そこから20世紀の1970年代の石油危機を発端に、徐々に地球温暖化への懸念が高まり、再生可能エネルギー源への関心が再び戻ります。ここからバイオマスを利用したエネルギー生産に関する研究と開発が加速され、バイオマス発電技術が進化していきます。石炭火力発電所とバイオマス発電所の比較石炭火力発電所とバイオマス発電所は、それぞれ石炭と生物質を燃料として使用する発電所ではありますが、いくつかの重要な違いがあります。以下に、両者の比較を示します。石炭火力発電:は安価で安定した電力供給が可能だが環境への負荷が大きく、一方で、バイオマス発電は環境への影響が少なく、再生可能なエネルギー源を提供するがコストと供給の安定性に課題があります。これらの違いから、多くの国では石炭火力発電からバイオマスや他の再生可能エネルギー源への移行が進められています。しかしながら、エネルギー安全保障、経済的な実行可能性、環境への影響などを考慮し、バランスの取れたエネルギーミックスへの移行が重要になってきます。タイの環境への取り組み、日系企業の間で度々話題になるBCG戦略とは?タイは経済成長と急速な都市化を遂げていますが、これらの進展は環境への負荷増大という形で顕著な影響を及ぼしています。まず、第一に首都バンコクでは、自動車排気ガスや工場からの排出物による大気汚染(スモッグ)が深刻な問題となっています。特に乾季には、スモッグが都市部を覆い、市民の健康を脅かしています。タイ北部では、農地の焼畑農業による煙霧が毎年問題となっており、近隣諸国にも影響を及ぼしています。また工場からの未処理または不適切に処理された廃水、農薬や化学肥料の使用による水質汚染が、川や湖、地下水の質を損なっています。そこでタイ政府はBCG戦略(頭文字: バイオエコノミー、サーキュラーエコノミー、グリーンエコノミー)を打ち出しました。BCG戦略は、国の持続可能な開発を促進するための経済モデルです。この戦略は、バイオエコノミー(生物資源の持続可能な利用)、サーキュラーエコノミー(資源の再利用と循環)、グリーンエコノミー(環境に配慮した経済活動)の3つの柱を基盤としています。目的は、経済成長を促進しながら環境保護を図り、社会的な包摂性を高めることにあります。タイ経済は過去数十年にわたり着実な成長を遂げてきましたが、その成長を持続可能なものにするためには、資源の効率的な利用と環境への配慮が必要とされています。従来の農業や製造業に依存する経済構造からの脱却と、高付加価値産業への移行を図ることが求められ、バイオエコノミーは農業国であるタイにおいて、新たな産業の創出と経済の多様化を促す機会を提供できるとしています。バイオエコノミーバイオエコノミーでは、農業や生物資源を基盤とした産業の発展を目指します。これには、持続可能な農業技術の推進、バイオマスからのエネルギー生産、生物技術を活用した製品開発などが含まれます。サーキュラーエコノミーサーキュラーエコノミーの目標は、製品のライフサイクル全体にわたって資源の最大限の利用を実現することです。これは、廃棄物の最小化、リサイクルの促進、製品の再設計を通じて資源の循環を高めることにより達成されます。グリーンエコノミーグリーンエコノミーは、環境に配慮した持続可能な経済活動を推進することを目的としています。これには、再生可能エネルギーの利用拡大、炭素排出量の削減、緑の技術の開発と普及が含まれます。まとめBCG戦略を通じて経済の多様化を図り、国の競争力を高めるとともに、気候変動対策と社会的包摂性の向上にも貢献することを目指しています。この戦略は、タイが直面する環境問題に対処し、持続可能な発展目標(SDGs)の達成に向けた取り組みの一環として始まりました。他国同様にタイもエネルギー事情の急速な発展が経済に大きく影響してきましたが、そこでいつも問題になるのが環境への配慮に欠けた経済成長です。タイは海洋プラスチック汚染の大きな発生源の一つであり、不適切な廃棄物管理が原因で多量のプラスチックが海に流出しています。また過剰な伐採、農地への転用、都市開発により、タイの豊かな森林資源が減少していき、極端な気象条件による影響を強く受けています。まだ車業界では記憶に新しい2011年の大洪水は甚大な被害をもたらす一方で、干ばつも国の農業や水供給に深刻な影響を与えています。経済発展と環境保護のバランスを取ることは依然として大きな課題です。再生可能エネルギーの促進、廃棄物管理の改善強化など、持続可能な開発に向けた取り組みが、この先のタイ経済成長の鍵となります。