最近よく聞くバイオマス燃料のSAFとは?SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、持続可能な航空燃料のことを指します。従来の化石燃料に代わるものとして開発されており、航空業界の炭素排出量削減に貢献することが期待されています。SAFは、生物資源(バイオマス)や廃棄物、さらには二酸化炭素を原料として製造されるため、従来の石油ベースのジェット燃料と比較して、ライフサイクル全体でのCO2排出量を大幅に削減できる可能性があります。近年、炭素排出量の削減を目指す世界的な努力の中で、国土交通省は2030年までに日本の航空会社が使う燃料のうち、持続可能な航空燃料「SAF」を10%まで引き上げる目標を設定しています。バイオマス燃料のSAFは多種多様な製法(7種を紹介)一般に使用されているジェット燃料についてですが、実は身近でよく知る灯油と同じものです。ガソリンスタンドで販売されている灯油と同質であることを知ると、意外に思われるかもしれません。実際、商用の航空機で用いられるジェット燃料は、灯油と同様、または灯油に少量の防酸化剤や静電気防止剤を加えたものが採用されています。灯油は、原油を蒸留し、沸点が170度から250度の間の成分を抽出後、精製することで得られます。化学的には、炭素と水素のみで構成される炭化水素であり、炭素の数は大体10から15個です。これらの炭素原子が連なって形成する骨格の周りに水素原子が結合しているパラフィン系の化学構造をしています。SAFは、石油を用いずに、主に植物などの有機物から得られる、灯油と同様の炭素数を持つパラフィン系炭化水素を人工的に製造したものです。では、どのようにして有機物からSAFを生成するかというと、化学者には多数の方法が考えられます。実際に、多様な製造技術が提案されており、アメリカの規格団体ASTMインターナショナルでは、これらの方法を7つのカテゴリーに分類しています(2023年4月時点)油脂水素化脱酸(HEFA)植物油や動物脂肪、使用済み調理油などを水素で処理し、航空燃料に適した炭化水素に変換するプロセスフィッシャー・トロプシュ法(FT)ガス化された炭素を含む原料(バイオマス、天然ガス、石炭など)から合成燃料を生成するプロセスアルコールからジェット(ATJ)エタノールやイソブタノールなどのアルコールを基にして航空燃料を製造する方法触媒ピロリシス有機物質を高温で分解し、短い炭化水素鎖を生成後、これを航空燃料の成分に変換するプロセス加水分解/糖化後の発酵バイオマスを糖類に分解し、その糖類を微生物が発酵させてアルコールに変え、最終的に航空燃料に転換する方法直接糖類から炭化水素(DSHC)糖類を直接航空燃料成分に変換するプロセス加水処理脂肪族炭化水素(HFA)脂肪族生物由来の原料を加水処理して、航空燃料に適した炭化水素に変換する技術なぜバイオマス燃料のSAFに注目が集まったのか?SAFに対する関心が高まっている主要な理由は、大気中のCO2濃度を上昇させないことにあります。SAFを燃やすとCO2が発生しますが、このCO2はSAFの生産に用いられる植物が成長期に大気から取り込んだものに過ぎません。地中から採掘される石油とは異なり、SAFは使用しても大気中のCO2濃度を実質的に増加させることはありません。またSAFが興味を引く別の大きな理由は、従来のジェット燃料と同様に使用できる点にあります。気候変動への取り組みに際して、自動車での電気や水素の使用が推奨されることがありますが、航空機でのそのようなエネルギー源の利用は困難です。電気を使用する場合、必要なエネルギーを蓄えるためのバッテリーは、ジェット燃料に比べて非常に重くなります。実際、必要なエネルギーを蓄えるためのバッテリーの重量は、ジェット燃料の約100倍にもなり得ます。この重量は航空機にとって大きなネックとなります。さらに、電気を使用する場合、プロペラを動かすモーターが必要になり、これはジェット機には適用できません。水素を使用する場合は、水素を使用するジェットエンジンの開発が必要になり、また、水素を高圧で保管するためのボンベが必要になります。これには大量のエネルギーが必要で、安全上の懸念も伴います。一方、SAFは従来のジェット燃料と同じパラフィン系の液体燃料であり、現行の航空機の燃料タンクに直接入れて使用できる「ドロップイン燃料」です。これにより、既存のエンジンや機体の再設計、燃料の貯蔵や配送システムの変更なしに利用可能です。SAFを採用することで、現在のインフラをそのまま活用しつつ、環境への影響を減らすことができるため、非常に魅力的な選択肢となっています。バイオマス燃料のSAFの原料調達の課題と展望SAFは、農作物や林業の副産物など、特定の地域に依存しない多様な原料から製造されるため、石油と異なり、より広範囲からの安定供給が見込まれます。これにより、国内産や多様な地域からの輸入を通じて、安定したエネルギー供給源となる可能性を秘めています。以下は、主なSAF製造の原料となるものです。植物油使用済みの食用油や藻類、ジャトロファ、カメリナなどの非食用植物から抽出された油固形バイオマス農業残留物(わらや穀物の殻)、林業残留物(木材のチップや枝)、その他の有機廃棄物から得られるガス都市ガスや産業過程で発生するメタンガス糖類サトウキビやトウモロコシなどの糖を含む作物から抽出された糖類バイオマス燃料のSAFには解決すべき課題!まず、コストの面で課題があります。従来のジェット燃料が1リットルあたり約100円であるのに対し、SAFの製造にかかるコストは製法によって異なりますが、1リットルあたり約200円から1600円と高額であり、将来的には製造コストを削減する必要があります。さらに、SAFの広範囲な普及には大量生産が必須ですが、原料の確保が大きな課題となっています。現状で航空機に実際に使用されているSAFの主な原料は使用済み食用油であり、これは供給量が限られており、市場では競争が激化しています。その他、カメリナ油やジャトロファ油などの特定の植物油や、一般廃棄物(例えば都市ゴミ)を使用する方法の開発も進められていますが、これらの原料も調達には課題が伴います。また下水汚泥をSAFの原料として利用する試みがタイの大学で研究が始まっています。下水汚泥からメタンガスを発酵させ、そのメタンをフィッシャー・トロプシュ合成法によりSAFに転換するのは技術的に実現可能です。タイのバンコクは雨季になるとスクンビット通りなどの街中の下水がつまり、洪水になることが頻繁にあります。バンコク一極集中都市となってしまってるため、人口密度も高く、下水道システムの整備が間に合っていません。日本でも下水汚泥を再利用して燃料に替える事ができれば、日常生活から出る廃棄物が、航空機を飛ばすための価値ある国産エネルギー源へと変わる可能性を秘めています。